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Jan 19 2021 14:55

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第9回「異なるものをつなぐ、比べる:地域研究と開発研究の狭間で考える」

グローバル地域研究機構(IAGS)GSI

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第9回「異なるものをつなぐ、比べる:地域研究と開発研究の狭間で考える」


日時:   2021年1月19日(火)14:55-16:40

場所:   Zoom Webinar

スピーカー:       受田 宏之
大学院総合文化研究科国際社会科学専攻・教授

 

タイトル:          「異なるものをつなぐ、比べる:地域研究と開発研究の狭間で考える」

 

要旨:都市に移住した先住民、彼らを支援するNGOや社会運動。インフォーマル経済。マゲイという植物を軸に多種多様な作物を生産する小規模農家。麻薬カルテル。大学院は経済学研究科だったにもかかわらず、メキシコをフィールドに、半ば偶然、半ば自発的に、人類学者が好むような人びとを研究してきた。だが、メキシコは同時に、1980年代の債務危機を経てテクノクラートが大きな影響力を持つようになり、NAFTA(北米自由貿易協定)に国運をかけ、効率性を重視した貧困対策を他国に先駆けて広く導入した国でもある。この多様な社会において私が考えてきたことや失敗を通じて、地域研究とグローバル・スタディーズの意義と手法について論じてみたい。

 

司会:  國分功一郎(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

討論者:田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)

             

言語:   日本語

 

問い合わせ先:   グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)事務局(contact@gsi.c.u-tokyo.ac.jp

「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ:これまでのセミナーはこちらのページをご覧ください。

 

【参加記】

2021年1月19日(火) に開催された「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第9回では、受田宏之氏(大学院総合文化研究科国際社会科学専攻) に「異なるものをつなぐ、比べる:地域研究と開発研究の狭間で考える」という題で講演いただいた。

受田氏は本セミナーでNAFTAに象徴される「テクノクラートのメキシコ」、先住民運動に見られる「多文化主義・小農のメキシコ」、インフォーマル経済が重視される「法律に反するメキシコ」など、メキシコのもつさまざまな顔とそれぞれのプレゼンスについて触れ、これらの異なるメキシコをつなげるために一貫して考えてきたアプローチや方針について4つの具体的な事例を挙げた。

まず先住民と開発について、受田氏は貧困削減や先住民自治の成功はコミュニティと外部社会をつなぐ存在に大きく影響されると指摘した。次に、違法だが許容された経済活動であるインフォーマリティについて、政府と貧困層の間にブローカーが存在し、インフォーマルな富の再分配が行われている状況を明らかにした。続いて、麻薬カルテルと暴力について、カルテル内部および周辺の規範をみる必要性から、日本とメキシコの大衆歌謡曲から事例比較分析を行った。最後に、サパティスタ民族解放軍 (EZLN) とヤマギシ会の例を挙げ、ユートピア志向の社会運動としてコミュニティの維持の展望が示された。

これら4つの事例を挙げ、受田氏は、性質の異なるデータを組み合わせて比較してみることや、違いの大きな事例の比較を通してNGOやコミュニティ、社会運動の再評価を行うことの重要性を強調した。また、グローバル・スタディーズという観点からは、本セミナーで言及された「メキシコの持つさまざまな顔」はすべてグローバルな次元を持ち、近年その存在感が増していると指摘した。さらに、東京大学ラテンアメリカ研究センター (LAINAC) を通じたスペイン語圏の大学との交流活動についても言及し、今後の課題としてアジア研究とラテンアメリカ研究の対話の促進を挙げた。

受田氏の報告に対し、田辺明生氏(総合文化研究科超域文化科学専攻) と伊達聖伸氏(総合文化研究科地域文化研究専攻) からコメントが寄せられた。まず田辺氏は、多くの人が所属するインフォーマルな世界を軸にしつつ、それをアカデミックな世界を含む、ヘゲモニーを握っているフォーマルな世界とつなげる重要性を指摘した。また、ラテンアメリカのインフォーマル経済の位置付けがインドと似通っていることに言及し、グローバル主義やテクノクラシーの世界に入るのではなく、個人の生や価値を守ろうとする営みとしてEZLNとインドの毛沢東主義者には共通点がみられると指摘した。続いて伊達氏は、地域からグローバルな基準を相対化する視点を評価しつつ、ラテンアメリカにおける賭け事の経済的意味について質問した。また、宗教運動は現代の格差社会を批判的に考える上でのひとつの焦点であるとしながら、その可能性と危険性の両義性を指摘した。

地域研究と経済学を補完しあう試みとして、異なるものをつなぎ、比べて考える視点が有用であることが改めて示された本セミナーは、白熱した議論とともに閉会した。

【髙橋茜(総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程)】