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Nov 17 2020 14:55

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第7回「世界史/グローバルヒストリー研究の意味、可能性と難しさ」

グローバル地域研究機構(IAGS)GSI

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第7回「世界史/グローバルヒストリー研究の意味、可能性と難しさ」


日時:   2020年11月17日(火)14:55-16:40

場所:   Zoom Webinar

スピーカー:       羽田正
東京大学東京カレッジ・カレッジ長

 

タイトル:          「世界史/グローバルヒストリー研究の意味、可能性と難しさ」

 

要旨:『新しい世界史へ』(岩波新書、2011年刊)を構想してから10年の歳月が過ぎた。この間、二つの国際共同研究に携わるとともに、世界各地で自分の考えを語る機会を何回か持った。これらの経験を経て、世界史/グローバルヒストリー研究(この二つの術語の意味の違いについては、当日整理して示す)の有する意味、可能性と難しさについて、私なりに考えを深めることができた。今回は、それらのうちから特に、1.研究者の立ち位置、2.研究発表の言語の2点について報告し、出席者と意見交換をできればと考える。なお、報告の内容が『グローバル化と世界史』(東大出版会、2018年)ですでに論じた点とある程度重なることをあらかじめお断りしておきたい。

 

 

司会:  伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)

討論者:田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

              國分功一郎(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

 

言語:   日本語

問い合わせ先:   グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)事務局(contact@gsi.c.u-tokyo.ac.jp

「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ:これまでのセミナーはこちらのページをご覧ください。

 

【セミナー参加記】

2020年11月17日(火)にグローバル・スタディーズ・セミナー「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第7回が開催され、羽田正氏(東京大学東京カレッジ・カレッジ長)に「世界史/グローバルヒストリー研究の意味、可能性と難しさ」と題してご講演頂いた。
 本講演は、羽田氏が2011年に出版された『新しい世界史』及び2018年の『グローバル化と世界史』に基づいて議論が展開された。羽田氏は日本における従来の世界史叙述の特徴を、ヨーロッパ中心主義的で、おおむね20世紀後半の世界観にとどまっていると考えている。また、日本の世界史叙述では地域を歴史の単位とみなし、自他を分けたうえでそれらを束ねたものとして「世界史」を考えており、特にヨーロッパや西洋が他地域に与えた影響という観点から記述している点も特徴的だとする。その結果、日本に強烈な帰属意識を抱かせ、他地域を他者と考えさせる要因となってきた。
 しかし、羽田氏によれば、グローバルな共同が不可欠な現代世界では、この捉え方は有効でないという。「地球」は人類の公共空間であり、人類は「地球の住民」として地球そのものへの帰属意識を持ち、「地球の住民の歴史」の構築を目指すことで、2020年現在のパンデミックを含めた新たな事態へも対応が可能となる。また、世界の中に日本を位置付けるように、歴史を解釈し、叙述する必要がある。このためには、必ずしも時系列から縦のつながりを追跡するのではなく、世界全体の見取り図を描き、様々な地域の横のつながりを意識すべきだと羽田氏は述べた。
 さらに、羽田氏はイランなど海外での研究活動の経験に基づいて、世界における「世界史」理解を説明した。外国語に翻訳して「世界史」について出版する際、”World  History”や中国語での「世界史」も含めて、それぞれ差異が存在することを認識したという。言語に依存して知の体系が存在し、「世界史」もそれぞれの言語によって異なるのである。そのため、言語間での優劣(とりわけ英語とその他の間で)をつけるのではなく、地域の多様性に基づき、それぞれの歴史の解釈の違いを認識し、徹底的に討論してお互いの主張とその背景を理解するよう努める必要があるとする。「新しい世界史」を理解するためには日本語での「グローバルヒストリー」が必要であるというのが羽田氏の見解である。
 最後に、羽田氏は「世界史」ではなく、人類全体の過去の歴史として「歴史」を示すべきだと提言した。一例として、「世界史」の一部として日本の過去を再解釈し、「歴史」とすべきだとした。人間の想像力の限界は国民国家に限定されるかもしれないが、そこへ愛着を抱きつつも、「地球の住民」としての帰属意識を持つことが重要であり、研究者はそのような研究活動を発信しなければならないとした。
 その後、羽田氏の報告に対し、一般社会での受容方法などに関して複数の質問がフロアや討論者から出され、白熱した議論とともに本会は盛会のうちに閉会した。

【報告:横山雄大(国際社会科学専攻修士課程)】