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Oct 20 2020 14:55

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第6回「グローバル化は比較社会研究に何をもたらすか?」

グローバル地域研究機構(IAGS)GSI

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第6回「グローバル化は比較社会研究に何をもたらすか?」


日時:   2020年10月20日(火)14:55-16:40

場所:   Zoom Webinar

スピーカー:       有田伸
東京大学社会科学研究所教授

 

タイトル:          「グローバル化は比較社会研究に何をもたらすか?」

 

要旨:本報告では,グローバル化現象の「様々な媒体を通じた様々な社会間接触の増大」という側面に着目し,それが比較社会研究の進展のためにいかなる契機をもたらすのかを考えてみたい.まずメルヴィン・コーンの古典的な論文に基づき,比較社会研究の諸類型とそれぞれの目的を確認した後,報告者の比較社会研究を事例として,様々な社会間接触への着目,あるいはそこから得られる気付きが研究をどのように進めてきたのかを振り返る.具体的には,報告者が参加したSSM(社会階層と社会移動)研究プロジェクトをはじめとする国際比較調査の経験や,共同研究者として現在携わっているアジアの若年・壮年日本人就業者研究プロジェクトの経験を事例として議論を行う.その際,社会を捉えるための枠組みを対象社会に適用した際の「やり過ごそうと思えばやり過ごせなくもない微かな違和感」の効用についても考えてみたい.

 

司会:  國分功一郎(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

討論者:田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)

言語:   日本語

問い合わせ先:  グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)事務局(contact@gsi.c.u-tokyo.ac.jp

「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ:これまでのセミナーはこちらのページをご覧ください。

 

【セミナー参加記】

2020年10月20日(火)にグローバル・スタディーズ・セミナー「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第6回が開催され、有田伸氏(東京大学社会科学研究所教授)に「グローバル化は比較社会研究に何をもたらすか」と題してご講演頂いた。

はじめに有田氏は、ご自身の地域研究を出発点とした社会学研究について社会のリアリティに根差した研究であると紹介した。そしてアメリカの社会学者メルヴィン・コーンによる比較社会研究の諸類型を確認した上で、これまでの研究の来歴について触れた。有田氏の初期研究に当たる『韓国の教育と社会階層―「学歴社会」への実証的アプローチ』では、日本と韓国の教育環境を比較し、社会的不平等の観点から教育・選抜システムをみる中で、社会階層の「客観的」側面から「主観的」側面へと関心が移る。有田氏はこの研究で、人々の意識や想定によって社会・制度が構築され、それが社会階層や移動そのものにも作用することを明らかにした。また予想に反してこの研究に対する反響が大きかったことについて、研究の供給があってこそ、研究上の需要が生じる可能性についても指摘した。有田氏はこのような経緯から地域研究から社会学への展開の可能性に気付き、その後社会の構築的側面に着目した、リアリティに基づく比較社会研究を行うことになったという。

続いて有田氏は、次の研究成果である『就業機会と報酬格差の社会学―非正規雇用・社会階層の日韓比較』を通じて、SSM調査プロジェクトに日本・韓国調査担当者として参加した経験談を共有された。そして国際比較調査を行った際に、調査票作成時の「非正規雇用」項目で「ダブルバーレル質問」が生じたことが、被雇用者の「従業上の地位」について考える契機になったと語った。勤め先の呼称で決められる「雇用身分」の区分付けが日本独特の特性であることから、非正規雇用に対する社会構築主義的アプローチ、すなわちその間主観的な基準に目を向け、社会学的観点からの労働市場における「身分」に対する研究が必要であると有田氏は考えた。このような「調査票」を通じた比較社会研究は、社会的な文脈への依存性が高いため、国と社会的背景への理解が重要になると気付いたことが、研究の新しい契機となったという。

更に最近は、「若年・壮年日本人移住者のキャリア移動とライフコースに関する縦断調査研究プロジェクト」に携わっていることから、ローカル採用と現地採用の間のギャップで見られる「Japaneseness」について着目する。アジアにおける現地採用はライフスタイル移住論に基づく説明よりも、キャリア形成としてのインセンティブがあると考えられる。これによってあぶり出されるのは日本企業における年齢と職務の独特な結び付きである。国際移動は移動者自身による社会比較の結果でもあり、この問題への着目が更なる新しい比較社会研究の契機を生む。有田氏は、グローバル化の進展に伴う様々な媒体を通じた社会間接触に着目することで、自らの比較社会研究の進展に重要な契機を得てきたことから、意識的かつ積極的にグローバル化の現象に着目することの重要性を強調した。

有田氏の報告に対し、報酬格差の説明における発生メカニズム・制度化をめぐる説明やグローバル/ナショナルレベルでの市場経済と社会通念との連関性、日本社会における雇用カテゴリーの評価、そして比較社会学としての方法論上の問題や「地域」単位での比較可能性について質問が寄せられた。政治経済の前提条件が異なる上での社会比較の妥当性や比較対象としての条件の判断基準などについて白熱した議論が展開され、本セミナーは閉会した。

【報告:ハン・アラン(国際社会科学専攻修士課程)】