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Sep 29 2020 14:55

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第5回「グローバル化の中でのイスラーム」

グローバル地域研究機構(IAGS)GSI

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第5回「グローバル化の中でのイスラーム」


グローバル・スタディーズ・セミナーのご案内

 

日時:   2020年9月29日(火)14:55-16:40

場所:   Zoom Webinar

スピーカー:       池内恵
東京大学先端科学技術研究センター教授

 

タイトル:          「グローバル化の中でのイスラーム」

 

要旨: イスラーム教とその思想、イスラーム世界の民族とその社会や国家、そこで行われる政治や国際関係は、グローバル・スタディーズの課題として極めて適合的な対象です。イスラーム教はアラビア半島のローカルな宗教として生まれた固有の信仰の体系であると共に、理念的な普遍性を主張し、その普遍性を世界の広い範囲において承認されるだけの大規模で組織的な政治的な拡大を経験し、歴史的に定着しています。中東地域には固有の歴史と文化と諸民族が存在すると共に、それがグローバルな社会・経済・政治変容と相互作用しながら発展し、拡大、あるいは拡散しています。中東地域を例に取り、そこに多様な形で存在する固有の社会と国家、そこに生きる人間集団のあり方に注目し、ローカル・ナショナル・リージョナルの諸次元が、グローバル化の中で現れ、発展していく過程をどのように捉えるか、考えてみます。

 

司会:  田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

討論者:國分功一郎(総合文化研究科 超域文化科学専攻)

伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)

言語:   日本語

問い合わせ先:        グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)事務局(contact@gsi.c.u-tokyo.ac.jp

「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ:これまでのセミナーはこちらのページをご覧ください。

 

【セミナー参加記】

 2020年9月29日にグローバル・スタディーズ・セミナー「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第5回が開催され、池内恵氏(東京大学先端科学技術研究センター教授)に「グローバル化の中でのイスラーム」と題してご講演いただいた。池内氏は、「グローバル・スタディーズ」を地域研究に根差しつつグローバルな関係の解明を行う取り組みであるとし、中東研究が「イスラーム」をめぐるグローバルな関係の解明に有機的に繋がっていく過程をご説明くださった。

 

 池内氏はまず、中東研究が対象とする「中東」という概念が20世紀初頭に構成されたものである一方、地域としては数千年の歴史を持って存在すること、中東を巡る複雑な政治から地理的に遠い日本からの視点による研究が持つ限界と可能性について触れられた。

 

 続いて池内氏は、中東を構成する最重要要素かつ超越的普遍思想である「イスラーム」を分節化して研究することを提起し、その特徴を啓典と啓典への信仰、啓典による法が権力関係の中で適用・施行される政治にあると主張した。イスラーム教では、啓示が歴史事実としてアラビア語正則語で啓典に一言一句たがわず記載されており、啓示法もそれを支える制度も継承されている。つまり、「最古の新興宗教」であると同時に普遍化によって教義の形骸化が起こることのない「最新の世界宗教」であるというのだ。

 

では一体どのような力がこのような継承を可能にしているのか。池内氏はこの答えをイスラーム教徒の政治的共同意識「ウンマ」に求める。「ウンマ」は個々人の集合意識によって形成されており、それを媒介するメディアによって支えられてきたという。氏は、この「ウンマ」観念が西洋中心的グローバル化に挑戦するもう一つのグローバリズムとして拡大しており、その拡がりが活性化した現象がジハード思想の強化に表れていると分析する。同時に、「イスラーム」は世俗化を有効に排除し、啓示による法の観念を持続させているが故に中世的な問題が蒸し返される場でもあるという。

 

 討論者の國分功一郎氏からは日本の戦後中東研究が有する政治性について、伊達聖伸氏からは日本での研究を外国語で発信することのインパクト及び西洋はイスラームのグローバル化においてどのように捉えられているのかという質問が寄せられた。これに対して池内氏は、ある時期までは日本の中東研究が左派とオリエンタリズム批判によって推進されてきたこと、アラビア語で記事を書くことを通して現地の議論も「じわじわと」変化していると体感すること、グローバルメディアの影響によって西洋内でもウンマへの帰属意識が再生産されていることを説明した。また、司会の田辺明生氏からは、イスラームも神との関係で自分の生き方を考える一つのあり方に過ぎず過度に西洋との関係で位置づけることは危険であるとのコメントがあった。

 

この他にも様々な質問が挙げられた。イスラームとは何かという根本的な問いから現代政治の最先端まで扱った大変刺激的な議論であり、「グローバル・スタディーズ」の魅力に触れた講演であった。

【報告:山崎香織(東京大学総合文化研究科修士課程)】