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Jan 21 2020 13:00

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第2回「境界再編の政治学」

グローバル地域研究機構(IAGS)

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第2回「境界再編の政治学」


「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第2回
「境界再編の政治学」

スピーカー:
石田 淳(東京大学大学院総合文化研究科教授)

要旨:
第一次世界大戦にせよ、第二次世界大戦にせよ、そして冷戦にせよ、20世紀のグローバルな対立の終結は、いずれの場合も、選択的ではありながらも統治の領域的枠組みの現状を組み替えることになった。それを機に独立国家の地位を獲得した諸国家――戦間期の中東欧諸国、第二次世界大戦後のアジア・アフリカ諸国、そして冷戦終結後の旧ソヴィエト連邦、旧ユーゴスラヴィア連邦諸国など――に対して、第一次世界大戦後と冷戦終結後には国際社会は一定の統治基準の達成を要請したが、第二次世界大戦後には必ずしも同様の要請を行なわなかった。では、その多様性はなぜ生まれたのか。国際秩序の変動が国内秩序の安定を脅かし、その安定を維持・回復するためにさらなる国際秩序の変動が生じる。このダイナミクスを、本報告は《国際秩序と国内秩序の歴史的共振》と捉え、政体内の共存と政体間の共存とを相互に関連づけるグローバルな政治理論モデルを提示する。

討論者:
田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻)
馬路智仁(総合文化研究科 国際社会科学専攻)
伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)

言語:
日本語

場所:
東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1

問い合わせ先:
東京大学グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)事務局
contact@gsi.c.u-tokyo.ac.jp

「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ:これまでのセミナーはこちらのページをご覧ください。

 

【セミナー参加記】

2020年1月21日、東京大学駒場キャンパスにて、グローバル・スタディーズ・セミナー「グローバル・スタディーズの課題」シリーズの第二回が開催された。今回は、東京大学大学院総合文化研究科・石田淳教授(国際社会科学専攻)から「境界再編の政治学」というタイトルでご講演をいただいた。ご自身の専門である国際政治学の研究とグローバル・スタディーズがどのように交わるのか、というのが講演の趣旨である。

石田氏は総合文化研究科における「グローバル・スタディーズ」の文脈を丁寧に追うことから講演を始められた。その中で氏は、まずは第68回駒場祭公開講座や2019年度の国際卓越大学院プログラム設置の事例を通して、同研究科文系4専攻を軸とする多元的知の共存やそうした学知の持続的発展をヴィジョンとする「グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ」という言葉の中身を解きほぐされた。その後、ご自身の「グローバル・スタディーズ」に対する方法論として、異なる分野の専門家が視座を共有することは容易ではないものの、グローバルな文脈の中で、≪全体と個の関係≫を意識しながら人間とその社会について考えることは可能ではないか、という一つの可能性を提案された。

そのような「グローバル・スタディーズ」の、国際政治学における一つの試みとして、石田氏は国内秩序と国際秩序の「共振論」を取り上げた。グローバルな統治領域の再編(例えばソビエト連邦の解体)が起こると、それまで多数派であった構成員が少数派になる(ロシア・セルビア域外に住む在外ロシア・セルビア人)ことで、ローカルな弱者の不安や国内秩序の混乱が予期される。そこで、「弱者の不安」を払拭することを目的とした安心供与を実現するため、国際社会から主権国家への関与(弱者への権利保障)が行われる。国際秩序の変動が国内秩序に影響を与え、さらにその影響を危惧する国際秩序の側が、弱者に不安を与える現状変更を相殺するため、国内秩序に介入するというグローバルな連鎖がみられるのである。20世紀以降の歴史における領域変更に伴う秩序変動の議論に限定されると留保されたものの、石田氏は、国際社会の変化をみるときに、国際社会の文脈を追うだけではなく、国内統治の不安定化も考慮しないと説明がつかないのではないかと述べられた。

続いて石田氏は、第一次世界大戦後・第二次世界大戦後・冷戦終結後という3つの時期の歴史的事例を「共振論」のモデルに当てはめて、更なる分析を加えた。そして、このような「共振論」によるモデルは、国際政治学における既存の変動論、例えば国内秩序と国際秩序の安定要因を同じものに求める国内類推論のような考えでは説明出来ない盲点を明るみに出すとともに、今日的な意義として、領域国家に対して「保護する責任」を持つような国際社会の役割への考察を深めることが出来ると強調された。

石田氏の大変刺激的な議論に対して、討論者や会場から、より議論を深めるような質問が多く寄せられた。例えば、「共振論」を適用した場合、植民地独立付与宣言はどのように解釈されるのか(国内統治の国際基準が変化したのか)という質問や、国内秩序や国際秩序という二項対立に対して、(例えば南アジアというような)「地域」秩序・価値体系がこのモデルにどのように関わってくるのかという指摘がなされた。一方、国境線を越えてグローバルな浸透力をもつ資本・宗教・環境が「共振論」に与える影響についても質問が寄せられた。また、台湾やコソボのような未承認国家をこのモデルに当てはめて考えると、秩序の変動を避けるために構成員資格が与えられていないのではないか、「共振論」的な枠組みによってこれらを捉えることが出来るのか、というような質問があがった。

多くの質問や意見が飛び交い、それに対する石田氏の応答が続き、白熱した議論が展開された。その余韻を残しつつ、本セミナーは閉会した。

【報告:原田遠(東京大学文学部・大学院人文社会系研究科修士課程)】