イベント

Dec 17 2019 13:00

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第1回「地域研究とグローバルスタディーズ ―一(いち)アメリカ研究者の視点から」」

グローバル地域研究機構(IAGS)

【参加記あり】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第1回「地域研究とグローバルスタディーズ ―一(いち)アメリカ研究者の視点から」」


「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第1回
「地域研究とグローバルスタディーズ ―一(いち)アメリカ研究者の視点から」

日時:2019年12月17日(火) 13:00-14:30
場所:東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム3
アクセス:https://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_17_j.html

スピーカー:西崎文子(東京大学グローバル地域研究機構 機構長)

討論者:田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻) 馬路智仁(総合文化研究科 国際社会科学専攻) 伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)
使用言語:日本語

「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ:これまでのセミナーはこちらのページをご覧ください。

 

【セミナー参加記】
2019 年 12 月 17 日、グローバル・スタディーズ・セミナー「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第一回が開催された。本シリーズは、近年注目を集めているグローバ ル・スタディーズを異なる研究者の視点から考察し、理解を深めていくことを目的として いる。初回はアメリカ外交史を専門とする西崎文子氏(東京大学大学院総合文化研究科教授、グローバル地域研究機構長)から「地域研究とグローバル・スタディーズ——一(いち)アメリカ研究者の視点から」というタイトルでご講演頂いた。
初めに、西崎氏はご自身のアイデンティティが「地域研究者」であると述べ、これまで「グローバル」という言葉を意図的に使わなかったと発言された。そのうえで、どのような研究が「グローバル・スタディーズ」になりうるかについて 3 つの可能性を挙げた。まず、問題 そのものがグローバルである研究、そして地域をグローバルな文脈でとらえる研究、最後に 世界各地を対象とする研究がそれである。こうした研究が「グローバル」に語られる一方で、 自国以外を扱えば「グローバル」と呼べるのか、或いは自国を扱って他地域に進出すれば「グローバル」なのか、といった問いが生まれる。また、なんでも「グローバル」に包括できてしまったら、カテゴリーとして意味がないとも指摘された。
こうした問いを引き受けながら、氏はアメリカ合衆国における「グローバル」について議論を進めた。まず、「グローバルな国家としてのアメリカ」から発生する問題について触れた。アメリカは独立以来「グローバル」意識を強く内包しており、これは世界的に見れば「例外的」であるが、他国が追随すべき「普遍性(グローバル)」を持っていると理解されている。そして、20 世紀に入ってアメリカが大国化していく中で、これらの価値観が現実化していった。こうして、グローバリゼーションとはアメリカニゼーションであるというような 批判も生まれた。
また、アメリカにおける「グローバル」性の問題も存在する。例えばトランプ大統領の弾 劾裁判における証言者の多様性(その多くが移民1世、あるいは2世であった)からも明ら かなように、アメリカは「時とともに古く」ならず、「時とともに新しくなる」国家である。 そこで語られる理念は「アメリカはこうである、あらねばならない」といったものであり、 多様な人間を一元化させる方向性を持っていると言えよう。
最後に、アメリカ合衆国研究と「グローバル」について、戦略的な地域研究と研究者中心 のプロジェクトという二つの系譜があると分析した。アメリカ外交史は第二次世界大戦後、 アメリカ・ワシントン中心の歴史、すなわち、他国の史料を使わない研究へと変化していった。いわゆるニューレフトからの批判も自国批判に終始しており、アメリカが大国ゆえに外からの視点に無関心であったことを示している。これに対して 1970 年代から international history と呼ばれるものが誕生したが、実際にどれだけ視角が変わったのかという点については未知数である。氏は例えば、現在多くのアメリカの大学で進んでいる、「自国研究を外国(アメリカ)でする(外国人)研究者」を雇用することが本当にアメリカ中心・例外主義 からの解放と言えるのか、といった疑問を呈した。そして、アメリカ例外主義を研究して、脱構築することこそが必要だと主張した。
以上の議論から、西崎氏はグローバル・スタディーズにはお題目としての意義はあるが、なんにでも使われると陳腐化、むしろシニシズムにつながるのではないかとその危険性を 指摘した。そのうえでグローバル・スタディーズに必要なことは何かというと、Audience がグローバルであることを意識すること、謙虚であること、知的好奇心であると結論づけた。氏によるとグローバル・スタディーズは当初 exotic 研究であり、だからこそ新しい発見につながったのである。こうした西崎氏の議論に対し、討論者やフロアから多数の質問が寄せられた。例えば、アメリカで行われるグローバル・スタディーズへの違和感をどのようにア ピールできるのか、といった質問に対して、氏はこの難しさを共有しながらも、妥協せずに 話せる場を見つける努力の必要性を説いた。こうして本セミナーは盛会のうちに幕を閉じた。

【報告:高島亜紗子(IAGS特任研究員)】

20191217_GSS(Nishizaki)参加記