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Apr 28 2020 16:50

【POSTPONED】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第3回「共感とチャリティの文化史研究とグローバル化時代の課題」

グローバル地域研究機構(IAGS)

【POSTPONED】「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第3回「共感とチャリティの文化史研究とグローバル化時代の課題」


「グローバル・スタディーズの課題」シリーズ第3回
「共感とチャリティの文化史研究とグローバル化時代の課題」

【日時】2020年4月28日(火)16:50-18:35
【場所】総合文化研究科18号館コラボレーションルーム1
【スピーカー】大石和欣 東京大学大学院総合文化研究科教授(言語情報科学専攻)
【要旨】

近代イギリスにおいて、貧困や劣悪な生活環境、あるいは奴隷制が深刻な社会・政治問題として認知され出したのは18世紀後半のことである。16世紀以来の救貧法への批判が高まり、さまざまな篤志に基づくチャリティが活発になり、奴隷貿易廃止運動も北米のクエーカーたちの行動と呼応しながら興隆する。そこに垣間見えるのは、社会的に抑圧された存在への共感と救済を謳う言説群である。それらは歴史的な状況のなかで、同時代の道徳・宗教思想に感化されながら醸成された心性を示唆している。こうした心性研究はイギリス国内の状況のみならず、グローバルな視野を通して再考される必要性が高まっている。

17世紀末から顕著になりはじめた金融資本の流動化、商工業の発展、そして消費の活性化、さらにはそれらを促進した北米、西インド、インドを中心としたアジア、そしてアフリカ、オーストラリアやニュージーランドにおけるイギリスの覇権拡張によって、富はイギリス国内に蓄積されていくことになった。その一方で、移動する、あるいは都市に流入する労働人口の増加と、その結果としてあるいは飢饉発生に伴う救貧法の機能不全は、貧富の格差を社会において明瞭なものにしていくことになった。また、いわゆる三角貿易の一角を担っていた奴隷貿易は、イギリス国内に富を還流させながら、アフリカから奴隷を西インド諸島や北アメリカ南部におけるプランテーションに労働力として供給することで、奴隷制を帝国覇権の一部に組み込んでいった。そのことは貧困や奴隷制という問題が、資本・労働・モノ・情報のグローバルな流通という現代にもつながる文脈において考察すべきものであることを意味する。20世紀末までの貧困についての歴史研究は、国内における救貧法施工の実態や民間の篤志に基づくチャリティのあり方を同時代の社会状況のなかで精査することで、貧困問題の本質を解き明かそうとしてきた。しかし、21世紀における研究状況は、そうした狭量な視座を乗り越えて、グローバルな資本や労働、モノ、情報の移動を通して貧困や奴隷制といった問題が生じている構造にも着目する必要性を認識している。

この時代に困窮し、あるいは隷属的状況に甘んじる人びとに対する眼差しは、こうした歴史的状況のなかで培われていった。感受性の時代と言われる18世紀後半、共感や憐憫といった美徳が称揚され、機能しない救貧法への批判を伴いさまざまなチャリティが活発になる。啓蒙的な道徳思想においても「共感」は重要な概念として位置づけられていく。また、フランス革命が掲げた「自由」「平等」「博愛」の理想は、社会的弱者への眼差しが敗退する政治的な意味をよりいっそう複雑なものにすることになっていった。しかし、この「共感」やチャリティもまた、上述のグローバルな文脈のなかで再考することを迫られている。そのときに「共感」はどのような心性として位置づけることができるのであろうか。

【討論者】
田辺明生(総合文化研究科 超域文化科学専攻)
馬路智仁(総合文化研究科 国際社会科学専攻)
伊達聖伸(総合文化研究科 地域文化研究専攻)

【言語】日本語

【問い合わせ先】
グローバル・スタディーズ・イニシアティヴ(GSI)事務局
contact@gsi.c.u-tokyo.ac.jp