ポスト新自由主義時代の民主主義の行方

ポスト新自由主義時代の民主主義の行方

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2014年は、サパティスタ武装蜂起20周年にあたる。1994年1月1日、北米自由貿易協定(NAFTA)の発効日に、メキシコ南部チアパス州の貧しい先住民農民を中心とするサパティスタ民族解放軍が、新自由主義的なグローバル秩序を批判して武装蜂起した。都会から遠く離れたチアパスのジャングルからインターネットを介してメッセージを世界に発信する手法は、「21世紀型社会運動」、「最初のポストモダン的革命運動」などと称され、新自由主義(neoliberalism)に代わる価値観として先住民の権利・文化の尊重や民主主義を提唱する姿は世界的な注目を浴びた。
それから20年が経った今日、TPP交渉にもみられるように、人・物・金・情報・サービスが国境を越えて急速かつ大量に移動するグローバル化の過程は一層進展している。その一方で、世界各地の様々な社会集団が、20年前のサパティスタのように、新自由主義とは異なる価値観に基礎を置く社会の構築に向けて声を上げてきた。2001年にブラジルのポルト・アレグレで、「もう一つの世界は可能だ(Another world is possible)」を合言葉に発足した世界社会フォーラム(World Social Forum)はその顕著な例である。2010年12月のチュニジアでのジャスミン革命を端緒として、中東・アラブ諸国で生じた一連の大規模な反政府デモや抗議行動(「アラブの春」)や、2011年9月にアメリカ合衆国ニューヨークのウォール街で始まった「Occupy Wall Street」運動も、既存の秩序への挑戦として記憶に新しいものである。
この会議の主要なテーマは、サパティスタ蜂起以降の20年間に世界各地で出現した社会運動や市民社会組織に関する最新の研究成果をもとに、これらの運動や組織が提唱する新しい価値観に基づく社会とはどのようなものなのか、これらの運動や組織の可能性と限界はどこにあるのか、そして、新自由主義的グローバル秩序にかわる「もう一つの世界」は可能なのかどうかを探求することである。
各社会運動が抱いている「もう一つの世界」のビジョンは、それぞれが直面する政治・経済・社会状況によって大きく異なっている。この多様性を理解するためには、様々な地域の専門家を招き、その知見を結集して取り組む必要がある。この会議の画期的な特徴は、グローバリゼーション研究、民主化・民主主義研究、市民社会研究、社会運動研究、革命研究、労働問題研究、開発学等の様々な分野の専門家を世界各地から一堂に集めてグローバル化時代の社会運動を比較検討することで、この多様性を理解し、21世紀のポスト新自由主義時代の社会の可能性を把握しようとする点である。
今回このテーマを探求する理由は、その今日的な重要性にある。グローバル化によって技術革新や経済成長を享受してきた世界の多くの人々は、市場の重要性を認めると同時に、2008年のリーマン・ショックやその後の世界的金融危機などの危うさや、貧富の格差の劇的な拡大、雇用の不安定化などの不安も抱いている。これらの市場中心のグローバル化がはらむ負の問題を指摘し、新たな社会の在り方を提案してきた様々な社会運動や市民社会組織を取り上げて、21世紀の世界が進むべき方向を模索することは、今日的に非常に重要なことだと考える。そして、ほかでもない東京大学が、世界各国の研究者や学生を集めてこのような重要な問題について議論する会議を主催することに大きな意味がある。

詳細な研究テーマ

詳細な研究テーマについては、「こちら(英語ページ)」をご覧ください。